研究内容RESEARCH

クッシング病の原因遺伝子およびその発症機構の解明

クッシング病は、下垂体腫瘍からのホルモン過剰分泌により、体型変化や免疫異常、各種代謝異常などを来す疾患です。稀な疾患ではありますが、適切な診断・治療がなされなければ命の危険があります。これまで同疾患の発症機構は未解明でしたが、2015年に脱ユビキチン化酵素:USP8の遺伝子変異がクッシング病の発症に関わることの解明を皮切りに、その病態解明が進みつつあります。当教室では、腫瘍増殖に関わるEGFRシグナリングに着目し、同疾患のさらなる病態解明を目指し研究を行っています。

副腎皮質癌における遺伝子変異解析と病態解明

副腎皮質癌は有病率が0.7-1.0/100万人と稀な疾患です。海外での研究では、WNT系、P53系の変異が副腎皮質癌発症に関与していることが報告されていますが、全貌についてはいまだ不明な点も多く、手術療法以外の有効な治療が限られる疾患です。本邦における副腎皮質癌の遺伝子変異についての解析を当大学の医化学教室の指導の下で実施中です。遺伝子解析より得られた情報をもとに、副腎皮質癌の病態解明につなげることを目指して研究を行っています。

甲状腺ホルモンによるTRH、TSHの負の転写調節機構の解明

甲状腺ホルモン(T3)は、核内受容体である甲状腺ホルモン受容体(TR)に結合し標的遺伝子の転写を制御することでホルモン作用を発揮します。しかしT3によるTRH、TSHのネガティブフィードバックを代表とする負の転写調節メカニズムに関してはよくわかっていません。当教室ではTSHの主要な転写活性化因子であるGATA2にTRが結合してT3依存性に転写を抑制することを発見しました(Biochem J 378:549-557, Mol Endocrinol 21:865-884)。同様のメカニズムがTRHのネガティブフィードバックでも生じることが判明し、さらに検討を行っています。

インスリン分泌やインスリン抵抗性のメカニズムの解明

最近、わが国において非常に増加している糖尿病はインスリン分泌不全とその抵抗性によるインスリン作用不足によって起こると考えられていますが、その原因については不明な点が多くその病態の解明が待たれています。これまで、我々は転写因子PPARγの構造・機能解析を進めてきました。インスリン抵抗性に関与する脂肪組織やマクロファージにおけるPPARγの作用を明確にするためにそのリガンドの相互作用について研究し、薬剤の併用療法に関する影響について報告しています。
また、インスリン分泌に関する研究として、近年脂肪酸によるインスリン分泌増強効果の一部がG蛋白共役型受容体(GPR)の一つである、GPR40(または脂肪酸受容体1〈FFAR1〉)を介することが知られています。我々はプロテインキナーゼC(PKC)の多様性に着目し、GPR40の活性化による血糖反応性インスリン分泌の増強効果において、PKCがどのように関与しているかを検討中です。
その他、甲状腺グループと共同して脂質代謝における転写因子の役割についても研究し、甲状腺ホルモンと脂質代謝の関連について報告しています。また、臨床薬理学と共同して薬物代謝におけるCYP3Aの作用についても報告しました。

持続血糖モニタリング(CGM)やフラッシュグルコースモニタリング(FGM)の解析

当院では持続血糖モニタリング(CGM)を、本邦で保険適応となった10年前より導入し、さまざまなタイプの超速効型や持効型インスリンの作用の比較による有用性や、経口血糖降下薬(近年ではDPP4阻害薬やSGLT2阻害薬)の特性などについて検討しています。外来・入院で年間100件程度の持続血糖モニタリングを行い、血糖変動を詳細に検討し、各患者の病態に合わせた薬剤選択・生活指導(patient oriented therapy)に活かしています。また、2017年に保険適用となったフラッシュグルコースモニタリング(FGM)を用いた糖尿病診療の有用性を評価するとともに、透析患者における精度の確認を他施設と共同で検討中です。