浜松医科大学内科学第二講座 人を知る 呼吸器内科 専門医(研究)

呼吸器科医は総合内科医たれ。
専門医をつなぐ
医療の要を目指して。

呼吸器内科

西本 幸司医師

浜松医科大学 2008年卒

地域医療を底上げする、医師のつながり。

「医局に所属することの一番の意義は、多くの先輩後輩とのつながりだと思います」。そう語る西本だが、彼が入局した当時は研修医制度が始まってまだ2年目。当時は医師免許を取得したら入局するのが当たり前という意識が強かったこともあり、入局することそのものには悩まなかったという。「呼吸器内科に興味を持ったのは、大学の病棟実習がきっかけです。指導医の先生方が非常に熱心だったこともあり、専門的でありながら幅広い症状を扱うことができるところに惹きつけられました」。呼吸器疾患には、感染症やアレルギー、そしてがんなど多くの症状があり、また重度になると呼吸器だけの疾患に留まることはほとんどなく、心臓や腎臓、肝臓などさまざまな臓器に障害が出ることが多い。そういった患者を最初に診断することが多い呼吸器内科医には、自分の専門分野を超える幅広い知識と、他科の専門医と協力してトータルで治療に当たる協調性が求められる。西本もまた、入局後は磐田市立総合病院で3年にわたって呼吸器内科医としての経験を積み、その後藤枝市立総合病院で2年、そして現在の浜松医科大学と、いくつかの職場を通じてたくさんの“先輩後輩”とのつながりを紡いできた。

「普段の勤務はもちろん、難しい症例を前にいろいろな先生と議論することは、患者さんの抱える問題解決につながるだけでなく、自分の成長にもつながります。また、今の時代は医局に所属することなく特定の市中病院の勤務医になるという道もありますが、医師が異動するたびに病院の考え方やシステムのいいところを持ち寄り拡散していくことで、地域医療全体を底上げできる。これから進路を決める皆さんには、そういう面にも目を向けてもらえたらうれしいですね」。

治らない病気を、治せる病気に。

現在、西本は呼吸器内科医として勤務すると同時に分子生物講座にも所属して、ヒストンアセチル化酵素・脱アセチル化酵素がどのようにDNA修復に関与しているかというテーマで研究を進めている。「細胞はアセチル化を含むヒストン修飾によって、転写の活性状態や蛋白の働きなどを調整しています。この機構はがんなどさまざまな疾患との関連が示されており、治療ターゲットとしても研究が進められています。これらの基礎的なメカニズムを解明することで将来的に治療に応用できればと考えています」。

西本がこのテーマを選んだ根底には、「呼吸器の病には、治らない疾患が多い」という現実があるという。「呼吸器は自覚症状が強く出ることが多いので、治る病気であればご本人にとっても目に見えて良くなりますし、私たち医師にとっても『病気を治した』という実感が得られやすいので、それがやりがいのひとつではあります。ただその一方で、間質性肺炎や肺がんのように現時点では治療の難しい病にかかる患者さんも少なくない。私の研究は基礎研究なので、例えメカニズムを解明できたとしても、それがこういった病気の治療に役立つかはわかりません。でも、確実に必要とされているという実感があります」。研究のために決まった時間が取れるのは、毎週木曜日の午後に開かれる抄読会のみ。後は病棟勤務の合間にできた時間や勤務後の夜の時間を使って、基礎実験を進めている。しかし、西本がそれを負担と感じていないのは、彼の中では研究も臨床が「病気を治す」という一点で分け隔てがないからかもしれない。

患者さん一人一人の声に、幅広い知識で応える。

医療の進歩は目覚ましく、毎年新しい薬や治療法が登場している。呼吸器内科医に限らず、世界中で日々更新される情報を吸収し、最良の治療を提示することは、医師の使命といえる。しかし、技術だけが医療サービスの本質ではない。西本は言う。「患者さんは、一人一人さまざまな事情を抱え、異なる考え方を持っています。病態だけをみるのではなく、患者さんの要望や思いにも耳を傾けながら共に治療に進んでいける医師が、僕の理想像ですね」。

西本には、後輩に語り継ぎたい言葉があるという。「研修医のころに、先輩から『呼吸器科医は総合内科医でもあるべきだ』と言われたのをよく覚えています。呼吸器疾患は感染、腫瘍、アレルギーなど非常に幅広い領域を扱います。膠原病や血管炎など、肺だけに注目していると見逃してしまう疾患も多くありますし、治療薬の副作用で糖尿病や高血圧などの管理が必要になることもあります。専門領域はもちろんのこと、幅広い知識を身につけてほしいと思います」。

MESSAGE

医局に入ることで違う病院の先生方ともつながりができ、いろいろな症例経験などを共有したり、臨床試験をしたりすることで視野を広げることができます。また呼吸器内科は人数が多いこともあり県内に関連病院が多数あります。そのため大学で研究に力を入れている人、市中病院で臨床に力を入れている人、開業して地域貢献する人などさまざまです。そのため医局に入った後も自分にあった働き方を見つけていくことができると思います。
取材:2019年6月