浜松医科大学内科学第二講座 人を知る 肝臓内科 専門医(臨床)

内科医の可能性を広げる
内視鏡に魅せられて。

肝臓内科

髙鳥 真吾医師

浜松医科大学 2009年卒

診療から治療まで一貫できる、内視鏡の力。

自分の手が届かない胃や腸の病巣に、直接的な治療ができる。そんな内視鏡の力に触れたことが、高鳥が消化器内科に興味を持ったきっかけだった。「消化器内科は、内科の中では珍しく病巣に直接アプローチできる分野です。例えばERCPという胆管や膵管を造影する検査がありますが、内視鏡を使っているので検査に続いて発見された結石の除去を行うことができます。病気の原因を文字通り目に見える形で取り除くことができ、患者さんにも治療効果をはっきりと自覚してもらえますから、達成感は大きいですね」。

今から30年ほど昔、まだ内視鏡が一般的ではなかったころは、消化管にできた病巣は外科的に治療する以外になかった。当然患者さんの負担も大きく、内科医にとっては自分の手の届かない領域ということもあって、悔しい思いをした医師も少なくなかったのだ。「内視鏡は、手技も機械もまだまだ進歩の途上にあって、できることが年々拡大しています。また取り付けられるアタッチメントもさまざまな種類があり、それらを駆使することで、患者さんの負担をより少なくすることができます。このように、診察から治療までを一貫して行える分野は内科では珍しく、だからこそやりがいを感じます」。現在は、浜松医科大学附属病院 肝臓内科の医員として大学病院と外勤先での臨床業務を担当する。「研修医時代最初の5年は磐田病院で、次の3年を浜松医療センターで過ごして、今年の4月から浜松医大に戻ってきました。同じ浜松医大の関連施設といっても、施設ごとに治療に関する姿勢や考え方が少しずつ違いますので、その良い点・悪い点を自分の中に取り込むとともに、新しい職場での勤務に生かしていくことで、より良い医療を患者さんに届けていきたいですね」。

医師の成長は、一人では成し難い。

高鳥が肝臓内科への入局を選んだのは、全内科で一番印象に残ったのが肝臓内科での実習だったからだ。「実習では内科系の全科を回ったのですが、中でも肝臓内科は雰囲気が良いというか、とても居心地の良さを感じたのを覚えています。先に述べたように、内視鏡を通じて消化器内科に興味を持っていたということもありますが、中でも肝胆膵領域に惹かれるようになったのは医局での実習経験が大きいですね。面倒を見てくださった千田先生はじめ、こんなにたくさんの先生方が声を掛けてくれたのも肝臓内科だけでした」。研修医時代も含めると、消化器内科医として8年のキャリアを積んできた高鳥。そんな今だからこそ思うことがある。「医師として経験を積むほどに感じるのは、医師が一人でできることは少ないということです。普段の医療行為もそうだし、難病に立ち向かう時も医局の先輩や仲間の力はとても頼りになります。また、若手の時は気付きませんでしたが、医師のキャリア形成も個人で取り組むのは難しい。自分に足りない知識や経験は何なのか、どの病院に行けば自分の望む勉強ができるのか、そういったことを自分で判断するのは困難です。医局に入ると自由がなくなるとか、医局員としての仕事が増えるんじゃないかと心配する方もいるかもしれませんが、医師としての成長を考えると医局に所属するメリットは大きいと思います」。

今では自身が先輩として後輩に頼られるシーンも多い高鳥。「先輩だけでなく、後輩の医師からも勉強になることはたくさんあります。特に研修医の後輩たちは患者さんと会話する機会が多いので、彼らの情報はとても重要。それに患者さんとの距離が近いこともあり、そのがんばる姿勢に身が引き締まる想いをすることも多いですね」。

今は、臨床医としてできることに打ち込む。

高鳥が幼いころ、内科医だった父が非番の日に、たまたま家の前で交通事故が起きた。とっさに飛び出していって応急処置に当たる父の姿をドキドキしながら見守ったのが、高鳥が医師を目指すようになったきっかけだ。だが、幼いころは万能だと思った医師も、実際に自分がなってみると医療の限界を感じることも多い。 「医師として自分にできることはごくわずかだけど、今は、自分にできることをしっかりやり切る医師でありたい」。そう語る高鳥は、いずれは大学院に進んで研究に従事することも視野に入れているが、しばらくは臨床に打ち込みたいと考えている。 「肝胆膵領域の病気は生活習慣によるものも多く、患者さんのやる気を引き出すのも医師の重要な役目です。時には叱咤激励が必要なこともありますが、そんな時に重要になるのが患者さんとの信頼関係。この医師の言うことなら信じられる、という気持ちを持ってもらうことです。これは当たり前のように思うかもしれませんが、日々の診療の限られた時間の中で実践していくのはなかなか難しい。だから今は臨床に集中して、患者さんに寄り添う時間を大切にしたいんです」。 まとまった休みが取れると、ローカル列車に乗ってのんびりとした旅を楽しんでいるという高鳥。旅先で出会う一つ一つの景色に心が癒されるのだという。そんな彼の医師としての歩みもまた、患者さん一人一人との出会いによって支えられている。

MESSAGE

冒頭で述べたように、内視鏡の進歩によって内視鏡医にできることはどんどん広がっています。自らの治療計画を自ら実践できる消化器疾患、中でも肝胆膵疾患に興味のある方は、当科に注目してみてください。あなたの目指す医療が見つかるかもしれません。
取材:2019年6月